雨上がり/みえないもの

みえないもの

こどもの日に飾られていた鯉のぼりは風に流され、街で迷子になってしまいました。それ以来、彼らは大きな川を求め、ガラスとコンクリートの迷宮を彷徨っているのです。 雨が上がり、再び飛び立つその一瞬、こっそり人間達をその大きな目玉で眺めながら…。 ――私たちが日本を旅行する時、よく妖怪のことを思い浮かべます。誰も見ることができませんが、彼らはまだ私たちの周りにいるのです。私たちが描きたいのは、目に見えるものと見えないものの境界にある、こんな奇妙な世界です―― 鯉幟(こいのぼり)をはじめて見たのは、新潟での長く厳しい冬の終わりのことでした。信濃川に沿って何十匹もの鯉が空に浮かんでいた。 風に吹かれて水のように波打つ生き生きとした姿。 明るい色だけが、鯉に摩訶不思議な外観を与えていました。 同時に日本中で、何千もの鯉たちが誰を驚かせる事もなく悠々と空を泳いでいました。 それは私たちにとって、本当に鮮烈な光景でした。

絵師 アトリエセントー

僕は今、「都鳥」という版元で、歴史的に潰えてしまった浮世絵のムーブメントを復活させる「令和新版画」[Reiwa Shin-hanga]というプロジェクトに参加しています。 江戸時代に最も栄えた浮世絵は、19世紀末にフランスでジャポニズムが流行し、印象派を始めとした画家たちの作品に大きな影響を与え、その代表であるゴッホやモネの作品は日本でも長く愛されてきました。 このように東洋と西洋は折り重なるように、異なる文化をそれぞれに融合させてきた歴史があります。 僕らがコンセプトの土台としている「新版画」もまた、衰退する浮世絵に西洋的な絵画技法を取り入れて生み出されたものでした。 現代でも、漫画とアニメーションを始めとしたカルチャーにおいてクロスオーバーし続けています。フランスの色付きの漫画・バンドデシネの巨匠であるメビウスと、手塚治虫・大友克洋・宮崎駿など日本を代表する漫画家・アニメーターたちはお互いに作品に影響を受けたと語っています。 そのような関係性を象徴的にまとめる意味で、バンドデシネの作家さんに浮世絵を作ってもらいたいと考えた時、日本の妖怪や文化をモチーフにして作品を描かれているアトリエ・セントーさんの事がすぐに思い浮かびました。 唐突なお願いを快く引き受けてくれて、漫画制作の忙しい合間を縫って、素晴らしい浮世絵の版下絵を描いてくれたアトリエセントーさんに心から感謝します。 このプロジェクトが成功して、さらに東西の友好が深まることを願っています。

アートディレクション つちもちしんじ

大判錦絵 水性多色木版(和紙:越前生漉奉書) ・イメージサイズ 260×185mm ・紙サイズ 280×200mm 絵師:アトリエセントー@AtelierSento アートディレクション:つちもちしんじ 彫版:柏木隆志 摺り:河合敦史

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